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月がとてもきれいだね

月がとてもきれいだね_f0107724_17203040.jpg昔、指揮者の岩城宏之氏が言っていた。
「欧米で仕事するときには,何か頼まれて返答に困るときには、とりあずNOと言う。なぜなら、彼らは一度Yesと言ったことで実行しないことを許さないが、一度Noと言ったことを実行することは受け入れるから。弟子にもそう助言している」と。

アサーティブトレーニングをするときに、いつもその言葉を思い出す。
アサーティブネスは、言葉という道具を使って具体的に厳密に情報伝達するローコンテクスト文化の中にある英語圏で発祥したものであり、一方で、比喩や間接表現等、言外の意味を汲み取るハイコンテクスト文化のアジア人には、それをそのまま適用するわけにはいかないことが出てくる。

つまり、アジアの文化では、同じ月を眺めつつ「月がとてもきれいだね」といえば,I love you は伝えられる。
一人称の私メッセージを使わなくとも、そういう深くしなやかな表現をやりとりする感受性が働けば、言葉以上のものを伝えることができる。

だが、このところ、そのたおやかな言語に、このブログにも再三書き込んでいる「(相手に)悪いから、言わない」というナルシシズムが混じり込んでややこしいことになっている。
ハイコンテクスト文化は、言外にゆたかな情緒があるから言葉に出さずとも成立するわけだけど、こちらのナルシシズムは寒々しいほどに情緒はない。

「相手に悪い」といっても、必ずしも相手を思っているわけではない。
相手に悪く思われるくらいなら、「話さない」、あるいは「思ってもいないことを言って済ませよう」、というのは、自己中毒のひとつ。自分を可愛がりすぎる嘘になる。

そんなこんなで、なにかを人に頼んだり誘いかけた時に、相手が「Noと言わない」それならば「Yes」なんだと判断したりすると、後々どえらいほど肩すかしを食らったり、こじれることの多い日常だ。

しかも、この自己中毒は、言葉を外に出さない分、心の中で先読み・悪意読みといった際限ない妄想もセットでくっついてくるから、コワいのである。

月がとてもきれいだね_f0107724_8363930.jpgその曲がりくねった闇の袋小路で人と関われずに苦悩する人が増えているので、「カンタン!アサーティブBook 自分の気持ち スッキリ伝えるレッスン帳」には、そのあたりのからくりを書き添えたのである。

「相手と考えを同じにしないと相手に対して悪い」というのは、「自分を偽れば良い関係ができる」「意見の一致こそが問題解決」という思い込みがあるわけだけど、これは文化に関係なく、不誠実でアンフェアな関係につながる。
お互いの違いがわかってこそ、安心して対立も出来れば,矛盾を受け入れたり、折り合いもつけられるのだから。

…って、いろいろ話したり書いたりすることも大事だけど、自分のほんとうの気持ちを誠実に伝えることで関係は育ち、適度な距離が創れるという、その実感と喜びの体験の場をどしどし創らなければと思う今日この頃なのである。
多文化共生の世界に生きる次代の子ども・若者たちには,ことさらにね。

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by teenspost | 2010-02-07 17:45 | ♪アサーティブ・ラボ